彼の名前は、跡部 景吾。男子テニス部の部長で、顔も美形で、なんでもできる。だから、この辺りでは、ちょっとした有名人。

忍足 「跡部、また彼女フッたらしいやん?」
跡部 「それが、どうした。」
忍足 「女の子の気持ちも考えや。かわいそうやで、ホンマに・・・。」
向日 「女たらしめ!」
跡部 「バカは黙ってろ。」
向日 「なんだよ、俺が口を開けば、『バカ』『バカ』って・・・!」
跡部 「バカだから仕方ねぇだろ。」
向日 「なに〜!」
忍足 「まぁ、まぁ・・・。それより、跡部。フッた理由が『好きな人ができたから』っていうのは、ホンマなん?」
跡部 「・・・。どうだって、いいだろ。」
宍戸 「ぜってぇ、ウソだろ。」
跡部 「お前らには、関係ねぇ。・・・それと、今日は、レギュラーは試合ねぇんだから、さっさと帰りやがれ。」

そして、私の初恋の人・・・。こんな気持ち、初めて。


アイツの名前は、 。同じ3年で、図書委員をやってるらしい。

 「さ〜、最近、やたら委員の仕事、頑張ってない?・・・まぁ、前からだけど。」
 「そ、そんなこと無いよ。」
 「あんた、わかりやすいのよね〜・・・。まぁ、私の予想があってたら・・・。『好きな人ができ、その好きな人がよく、図書館に来るから』って、とこかな?」
 「・・・・・・そんなに、わかりやすい?」
 「ううん。長年の付き合いがある、私だからこそ、わかったのよ。」
 「そう・・・。(それにしても、そんなにわかるなんて・・・。)」
 「それで、相手は?」
 「絶対、驚いたり、『無理だ』って言ったり、あるいは、笑ったりするから、嫌。」
 「そんなにスゴイ人なの?・・・まぁ、驚いたり、笑ったりしないから。」
 「ホントに?」
 「うん。」
 「・・・跡部君。」
 「それは、たしかにスゴイね・・・。」
 「ほら〜、そう言うと思ったのよね・・・。」
 「別に、驚いてもいないし、笑ってもないじゃない。」
 「だって・・・。」

そして、俺が初めて好きになった奴だ・・・。


俺・私達が出逢ったのは数ヶ月前・・・。


私は、その日、図書委員の当番(って言っても、毎日なんだけど。)で、図書館に来ていた。

俺は、その日、次の授業に必要な本を借りに、図書館に来ていた。

 「(あれって、跡部君だよね・・・?どうして、図書館なんかに居るんだろう・・・。跡部君の家なら、学校ぐらいの図書館(みたいな所)があるだろうに。)」
跡部 「(家の本を忘れるとは・・・。だから、と言って、誰かに持ってきてもらうのも、面倒だしな。)」
 「(何か、探してるのかなぁ・・・?)」

跡部君の第一印象は「見た目は、キレイだなぁ・・・。」だった。跡部君は、性格の悪さも有名だったから。(誰かと付き合っては、すぐに別れ、また、別の人と付き合って・・・、を続けていたらしい。)

 「(それにしても、跡部君キレイな顔・・・。うらやましい・・・。それに、あそこだけ、雰囲気が明るい気がする。)」
跡部 「(・・・そこらの奴に聞いてみるか。)」
 「(うわっ!目、合っちゃった!ずっと、跡部君を見てたしなぁ・・・。)」
跡部 「おい。ギリシャの本って、どこにあるんだ?」
 「もしかして、選択授業で必要な本?」
跡部 「・・・あぁ。」
 「すっかり、忘れてた〜・・・。」
跡部 「・・・おい。」
 「あっ、ゴメン。ギリシャの本だったけ?それなら・・・。え〜っと・・・。・・・・・・あった、あった。この辺りの本でいいかな?」
跡部 「あぁ。」
 「それにしても、跡部君、ありがとう。」
跡部 「何が、だ?」
 「実は、私も選択授業が“ギリシャ語”なの。でも、本を借りるってこと、今まで忘れて て・・・。それで、跡部君のおかげで思い出せたから、『ありがとう』って。」
跡部 「・・・・・・そうか。」
 「・・・今、『こんな奴いたか?』とか『こんなバカそうな奴が?』って思った?」
跡部 「・・・まぁ、それに近いことだな。」
 「ヒドッ・・・。まぁ、本当に目立たないし、頭も良くないから、別にいいけどね・・・。じゃ、また、選択授業で。」

アイツの第一印象は、「変な奴(あるいはバカ)だ。」と思った。(ずっと、1人でしゃべる時があったからな・・・。)

跡部 「おい。お前、名前は。」
 「私?・・・私は、図書委員長の です。」
跡部 「・・・・・・そうか。」
 「あっ。今、『こんな奴が図書委員長?』って思った?」
跡部 「・・・まぁな。」
 「もう!まぁ、いいけど。・・・それじゃ!」


その後、俺・私達は、図書館や選択授業とかで、話す機会が増えた。


跡部君は、第一印象(って言うか、噂)と違って、本当はとても優しい人だった。(悪口は相変わらず、スゴイけど・・・。)

アイツは、第一印象と違って、結構、頭のいい奴だった。(1人でしゃべるのも、俺の考えを先読みできたから、みたいだしな(たぶん)。)

忍足 「跡部は、残ってどうするん?」
跡部 「部長が残らなくて、どうする。」
忍足 「それは、そうや。」
向日 「こんな奴でも、一応、部長だもんな。」
跡部 「忍足。バカを連れて、さっさと帰れ。」
向日 「なんだと〜!」
忍足 「(苦笑)・・・ほな、頑張りや。」
宍戸 「お前、残ってたら暇じゃねぇか?」
跡部 「別に、ずっと試合を見てるわけじゃねぇよ。」
宍戸 「そうか。」
鳳 「宍戸さん。帰りませんか?」
宍戸 「おう。じゃあな、跡部。」
跡部 「あぁ。」
鳳 「跡部先輩、ご苦労様です。それでは、お先に失礼します。」
宍戸 「おい、跡部。どこ行くんだ?」
跡部 「暇つぶしだ。」

 「でもさ〜、跡部君って性格悪い、ってよく聞くけど・・・。」
 「本当はいい人だよ。」
 「そう。・・・でも、今、彼女がいるんじゃなかったっけ?」
 「うん。」
 「それなのに、好きになっちゃたの?」
 「・・・・・・うん。」
 「べ、別に『無理だ』って、言ってるわけじゃないからね?」
 「そんなに気にしなくても、いいよ。」
 「・・・そういえば、図書委員、行かなくてもいいの?」
 「今、行くよ。」
 「そう。じゃ、いろんな意味で頑張りなよ。」
 「どういう意味?」
 「だって、跡部君が来るかもしれないでしょ?」
 「滅多に来ないよ。」
 「でも、来るかもしれないでしょ?」
 「まぁ・・・。」
 「じゃ、頑張れ!」
 「は〜い。」


跡部君、彼女がいるってことは、好きになる前から知ってた。それでも、好きになってしまった・・・。でも、跡部君は勘が鋭いから、私の気持ちなんて気付いているはず。だから、もし、今の彼女と別れたら、少しは期待ができる。本当に少しだけど・・・。だって、跡部君、たぶん、淋しいから、いつでも、誰かと付き合ってる、みたいだし(本当に『好きだから』付き合ってる、って感じじゃ無さそうなの。そんなこと言わないけど)。
そしたら・・・。


 「(さてと・・・。)」
跡部 「よぅ。」
 「わっ!跡部君!・・・どうしたの?部活は?」
跡部 「今日は、レギュラー以外の試合だけだから、暇つぶしに来た。」
 「そっか。部長は、自分とは関係なくても残らなくちゃ、いけないもんね。」
跡部 「まぁな。」
 「じゃあ、私も一緒に、本を読もうかな。」
跡部 「サボりか・・・?」
 「違うよ!今日は人数が少ない日なの。だから、毎週この日は、私も読んでるの。」
跡部 「・・・それを、『サボり』って言うんじゃねぇのか?」
 「・・・・・・・・・委員長の私が『良い』って言ってるんだから、いいの!」
跡部 「まぁ、俺には関係の無いことだけどな。・・・邪魔はするなよ。」
 「はい、はい。」


俺は、昔付き合ってた奴に言われたことがある。「景吾は淋しがり屋なんだね。」と。俺はそんなわけねぇ、と返したが、「わかってるから。」と言われた。・・・そいつは、賢かった。付き合う前に「こいつは俺のことを理解してくれそうだ」と思ったのも事実だ。だけど、実際、バカだった。・・・そんなこと、わかっていても言わないのが、当たり前だ。だから、別れた。
だけど、今回の奴は、「本当に付き合ってもいい」と思えた・・・。


 「(跡部君、真剣に読んでる・・・。今、話しても無駄だと思うけど・・・。)跡部君?」
跡部 「・・・あぁ。」
 「・・・聞こえてる?」
跡部 「・・・あぁ。」
 「聞こえてないよね?」
跡部 「・・・あぁ。」
 「(聞こえてないんだ・・・。まぁ、その方が話しやすいか。)あのね、跡部君。」
跡部 「・・・あぁ。」
 「さっき、図書館に来る途中で女の子3人が話してるのを、聞いちゃったんだけど・・・。」
跡部 「・・・あぁ。」
 「彼女と別れたの?」
跡部 「・・・あぁ。」
 「しかも、『好きな人ができたから』っていう理由で別れたらしいけど、本当?」
跡部 「・・・あぁ。」
 「跡部君、あのね・・・、私、跡部君のことが好きなの。たぶん、跡部君、気付いてると 思うんだけど・・・。だから、その・・・、期待しちゃっても、いいかな・・・?」
跡部 「・・・いいんじゃねぇの。」
 「・・・。跡部君?!もしかして・・・、聞こえてる?」
跡部 「当たり前だろ。」
 「さっき、聞いてないって言ってたじゃん!」
跡部 「・・・そんなこと、言ってねぇよ。」
 「(あの時だけ、本当に聞いてなかったんだ・・・。もう、こうなったら自棄よ!)期待していいの?」
跡部 「だから、いいんじゃねぇの。」
 「私は、ちゃんと言ったんだから、跡部君もちゃんと言って。」
跡部 「あぁ・・・?!」
 「ううん。やっぱり、言わなくて、いいよ。それが跡部君だもん。・・・そして、私はそんな、跡部君を好きになったんだから。」
跡部 「・・・バーカ。」

私、すごく幸せです。本当に跡部君に会えて、よかったって思ってる。

俺は、コイツに会って、人生が変わった気がする。だけど、それはよかったと、思っている。


愛してるよ

愛してる













 

跡部さんの性格が悪くて、すみません・・・!淋しいから付き合うって・・・。女の敵ですよ!!
でも、今回は本気で・・・、ってことなので、許してやってください!
もちろん、跡部様ではなく、私を、です!(笑)

あと、この話を書いたきっかけは・・・。一時期、姉とやっていた遊びの“罰ゲーム”なんです!(笑)
もし、「どんな遊び?」と興味を持った方がいらっしゃいましたら、お手数ですが、山吹の室町夢のあとがきをご覧ください。